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ユング心理学入門(河合隼雄著)【第二章 コンプレックス】

 ユング心理学入門(河合隼雄著)【第二章 コンプレックス】

ユング心理学入門(河合隼雄著)を熟読してみる - 648 blog

というわけで、「<心理療法>コレクションⅠ ユング心理学入門(河合隼雄著)」の「第二章 コンプレックス」を読んでみた。

本章で僕が理解したことを、可能な限り詳述したい。

 

 

コンプレックスという言葉

ユングが1906年に発表した著作の中では、「感情によって色づけられた複合体」と書かれており、これがのちに「コンプレックス」と呼ばれるようになった。
コンプレックスとは本来、「複数の要素が合わさったもの、複合のもの」などという意味を持つ、一般的な名詞だ。
たとえば、シネマ・コンプレックス(複数スクリーンのある大型映画館)については、日本でも一般名称になっている。
その中で、ユングは人間の心の中に潜む、抑圧された、まるでひとつの感情的集合体のようなそれに、「コンプレックス」と名付けたのである。

コンプレックスの正体

コンプレックスは日常生活の中で、突如表出してきて、僕らの邪魔をする。
「魔が差す」「人が変わる」「はめを外す」などという言葉があるが、これらはコンプレックスの影響によるものだ。
コンプレックスはさながら、いたずらな小人のように、突然現れては僕らの言動を歪めてしまうのだ。
そんなコンプレックスの正体とは、「抑圧体験が圧縮されたもの」だ。

たとえば、親に暴力を振るわれた子供は、それがあまりに恐ろしすぎて、いちいち思い出していては日常生活を送れなくなってしまう。そこで、その子供は恐ろしい体験を「ゴミ箱」にしまって、できるだけ見えないところに隠してしまう。
親が暴力をふるうたびに、子供はそのつらさを「ゴミ箱」に捨ててゆく。
隠された「ゴミ箱」は、普段は目に見えない。
しかし、ふとした拍子に、たとえばドラマのワンシーンで家庭内暴力のシーンが出たときに、あるいは、ある子供がある子供を殴ったときに、あるいは、単純に、「ぶたれたいのか」と知らない大人の声を聞いたときに、「ゴミ箱」が傾いて、抑圧の記憶がこぼれてくる。
すると、子供は反射的に、抑圧と暴力のさなかに突き落とされてしまう。

社会生活の中で、僕らは様々な抑圧を抱えて生きていく。

  • 容姿に関する抑圧(身長や美しさなど)
  • 社会的なことに関する抑圧(学歴や就職先や年収など)
  • 攻撃による抑圧(家庭内暴力や他人からの暴力や罵詈雑言など)

さまざまな要素について、かつて僕らは直接的に非難されたかも知れない。
大人になってからも、間接的にであれ、苦しい思いをしたかも知れない。
ひとことで言えば、そういった思い出は「抑圧の体験」ということになる。
そして抑圧の体験は、集積して、コンプレックスとして「ゴミ箱」に詰め込まれる。
やがて、「ゴミ箱」が傾いては、僕らは戸惑い、感情的な言動をとってしまうことになる。

コンプレックスからの自己防衛

自我とは、心の中心に存在する、感情や感覚や思考の主体だ。
自我はそのまま、僕らの人格そのものと呼ぶこともできる。
僕らはおのおのの性格や思考に従って、意見を言ったり、なにかを感じたり、行動を起こしたりする。

コンプレックスの「ゴミ箱」が傾くと、自我は反射的に、「ゴミ箱」を立て直そうとする。
そのため、不自然な言動をとったり、話をはぐらかしたりして回避しようとするし、はたまた、回避できずに、感情的になってしまったりする。

こうしたコンプレックスと上手く付き合っていくために、僕らは3つの態度を取ることになる。
これを、「自我防衛の規制(defense mechanism)」と呼ぶ。

以下では、家庭内暴力を受けた子供(仮にAくん)の例をとって説明する。

1.同一視(identification)

Aくんは両親に従うことで、できるだけ殴られる機会を減らそうとした。そのため、暴力的な抑圧に対して、恭順することで対応するような性格になった。

やがて、「殴られるから従う」と思うことを止めて、「両親は正しいから従っているのであり、僕が弱いからではない」と思うようになった。

同時に、Aくんは自分の弱さを補填するため、友人の話を親身に聞いたり、ボランティア活動をしたりして、他人を救済したいと思うようになった。

2.反動形成(reaction formation)

両親を正しいと思うゆえに、Aくんは自身の子供や他人にも、「同じ正義=暴力」を振りかざすようになった。

やがてAくんは、自身が親の暴力のせいで苦しんでいたことに気がつき、今度は暴力とは真反対の教育方針を取ることにした。

しかし、それは過度な放任主義となり、よりいっそう、子供を迷走させることになった。

3.投影(projection)

Aくんは、自分の中に暴力に対する深い抑圧があることで、他人の中の暴力的な傾向に敏感になった。

そのため、Aくん自身が暴力的であるのに、ことさら他人の暴力性を取り上げ、「あいつは暴力的だ」「あいつは粗暴だ」などと言うようになった。

これはあたかも、Aくんの中の闇の部分が、そのままAくんの視野に飛び込んでくるようなものだ。

連想実験での分析

ある人のコンプレックスの正体を見極めるために、言葉による連想実験が有効なのだという。

言語連想の方法を心理学に用いることは古くからなされていたが、これを臨床的に用いようとしたのはユングが最初である。彼は簡単な言語の連想において、反応時間が相当おそくなる事実を認め、それは知的な問題というよりも、むしろ常道的な要因によって起こされると考え、これを臨床的に応用しようとして、言語連想実験の方法を確立したのである。

とのことだ。

言語連想法の手順は、簡単には以下のようになる。

他人に協力を求めてもよいが、自分でも試すことができる。

  1. 治療者は推奨される100個の単語を用意しておく(頭、緑、水、歌う、死、などの規定の言葉)
  2. 治療者は患者に、100個の単語を順番に言っていく
  3. 患者は都度、思いつく別の単語を答える
  4. 治療者は設問となる言葉に対して、なんという言葉をどれくらいの早さで答えたかを記録する
  5. もう一度、最初から100個の言葉に対する反応実験を行う
  6. 患者の回答速度や回答の内容により、分析を行う

といったものだ。

コンプレックスを刺激された人は、意識的にせよ、無意識的にせよ、その言葉に対する反応が特殊なものになる。そのため、「反応が遅れる」「極端に無関係な回答になる」「一回目と二回目でばらつきがある」などといったことが起こる。

そして、その特異点をヒントにして、分析を行っていくものとなる。

ちなみに、連想記憶法で利用する100個の言葉は、以下のようなものだ。

刺激語リスト
  1. 歌う
  2. 長い
  3. 支払う
  4. 親切な
  5. 尋ねる
  6. 冷たい
  7. 踊る
  8. 病気
  9. 誇り
  10. 炊く
  11. インキ
  12. 怒り
  13. 泳ぐ
  14. 旅行
  15. 青い
  16. ランプ
  17. 犯す
  18. パン
  19. 金持ち
  20. 刺す
  21. 同情
  22. 黄色い
  23. 死ぬ
  24. 新しい
  25. くせ
  26. 祈る
  27. 馬鹿な
  28. ノート
  29. 軽蔑する
  30. 高価な
  31. 落ちる
  32. 不正な
  33. 別れる
  34. 空腹
  35. 白い
  36. 子供
  37. 注意する
  38. 鉛筆
  39. 悲しい
  40. あんず
  41. 結婚する
  42. 可愛い
  43. ガラス
  44. 争う
  45. 毛皮
  46. 大きい
  47. かぶら
  48. 塗る
  49. 部分
  50. 古い
  51. 打つ
  52. 荒い
  53. 家族
  54. 洗う
  55. 妙な
  56. 降雨
  57. うそ
  58. 礼儀
  59. 狭い
  60. 兄弟
  61. 怖がる
  62. 間違い
  63. 心配
  64. キス
  65. 花嫁
  66. 清潔な
  67. 選ぶ
  68. 干し草(草)
  69. うれしい
  70. あざける
  71. 眠る
  72. きれいな
  73. 侮辱

なお本著では、上記の言葉はヨーロッパに最適化されたものなので、日本で本格的に使う場合には適宜見直すべきだとも書かれている。

影との戦い

コンプレックスを解消するために、僕たちはどんなことをするべきだろうか。

その答えのひとつとして、本著にはある少年の例が紹介されている。

  • ある少年(Bくん)は、おばあちゃんの影響で極端な潔癖症になっていた(それは、極端に攻撃性=能動性を失った状態と言えた)
  • カウンセラーはBくんとの遊びを行う中で治療を試みる、遊戯療法をすることにした
  • 組木遊び、ボーリング、ドッヂボールを一緒にすることで、Bくんは汚れを省みずに真剣に遊ぶようになった
  • Bくんは自分の感情や価値観を表に出すことを学んだ
  • Bくんはよい意味で攻撃性を身につけ、コンプレックスを自我に統合することに成功した

これが、コンプレックスを解消するための治療内容だということだ。

(治療というより、スポ根の世界か。カウンセラーには常人ならぬ体力が必要なようだ)

教育とコンプレックス

こんな一文を紹介しよう。

コンプレックスの過程において、それとの対決の必要性を述べたが、これに従えば、コンプレックスを避けることはあまり建設的ではないことは明らかである。しかも、コンプレックスは自我によって十分に経験することを拒否された感情によって色どられ、強化される点を考えると、いわゆる「劣等感を持たせないために」なされる教育的配慮は、むしろ劣等感コンプレックスを強化するのに役立っている場合さえあることを知るべきである。

つまり、「子供に劣等感を与えることを避けることで、問題を先送りにしている」ということだ。

人間のコンプレックスと自我の形成には、こうした教育のあり方が大きく関係しているのではないか。

成長のためには、苦しみは必要だ。

問題は、どのように苦しみと向き合い、どのように克服するか、ということではないだろうか。

まとめ

今回はユング心理学入門(河合隼雄著)の「第二章 コンプレックス」を僕なりに読み込み、可能な範囲で解説した。

コンプレックスは自我から切り離された、憐れな流浪者みたいなものである気がする。コンプレックスに向き合い、自我に統合し、より幸福な人生を送れたらなによりかと思う。そして、それは簡単なことではないだろうが。

それでは引き続き。

続きはこちら

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