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ユング心理学入門(河合隼雄著)【第七章 自己】

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ユング心理学入門(河合隼雄著)を熟読してみる - 648 blog

というわけで、「<心理療法>コレクションⅠ ユング心理学入門(河合隼雄著)」の「第七章 自己」を読んでみた。

本章で僕が理解したことを、可能な限り詳述したい。

 

自己について

自己(セルフ)の概念は、ユング心理学のゴールに位置するものだ。自己は無意識や意識を含めた心の中心にあるとともに、心そのものでもある。

個性化

人間は意識と無意識、ペルソナとアニマ・アニムスを自己に統合することによって、自分自身を完成させてゆく。(自己実現、または個性化とも言う)

自己実現(self-realization)と個性化(individuation)はほぼ同義だが、個性化という言い方をされることが多いようだ。

相補的な心

タイプ理論における様々な心理機能や、ペルソナやアニマ・アニムスの関係、あるいは意識と無意識の関係に見られるように、心は相反する様々な概念を抱いてバランスをとっている。

また、自己はその中心に位置する、あらゆる心の働きをまとめ上げるものだ。

壊れながら進む

ある人の人格に調和が訪れたとしても、さらに人間は成長を求めて、自分自身の殻を破って、前に進もうとする。

苦しみや自己矛盾を抱えながら前進するその姿は、人間の本質には自己の統合を求める本能があるかのようだ。

自我と意識と自己の関係

ユング自身は心における自己のありかたについて、

「自己(セルフ)は心の全体性であり、また同時にその中心である。これは自我(エゴ)と一致するものでなく、大きい円が小さい円を含むように、自我(エゴ)を包含する」

と言っている。

自我は意識の中心にある、個々人が自分だと認識している主体である。それに対して、無意識の側に位置する自己(セルフ)は、様々な心像や元型のエネルギーにつながる、心の中心的な存在だ。自我が日常の物質的な生活に慣らされているのに対して、自己(セルフ)は時間や合理性を超越した、精神的な世界に位置している。

これを図に示すと、以下のようになる。

自我・意識・自己の図

自己実現の闇

自己実現を追求する中で、注意すべき面が多々ある。自己の統合が困難だからこそ、自己の概念がユング心理学の中心に位置づけられているのだ。

自己の巨大さ

自我(エゴ)は普段、合理的な物質世界を対象にした意識活動をしている。そんな中で、自我(エゴ)が自己(セルフ)に接触すると、自我は甚大な影響を受けることになる。

通常は夢の中だけで見るような幻覚や超感覚に襲われ、場合によっては心が自己や無意識に呑み込まれてしまうのだ。

すると、夢と現実の境目が分からなくなり、幻覚によって自分が特別な存在になったように感じたりし、人格破綻が生じることがある。統合失調症などは、この延長線上にあると言える。

そんな理由から、安易な薬物摂取や独学での瞑想などにも注意が必要だ。

自我の暴走

自己への接触によって自我が呑み込まれるリスクについては前述したが、自己を無視して、即物的な生き方を続けることでのリスクもある。

自己、つまり自分の中の精神性や内的順応を無視して生きていると、物質面には困らない一方で、心の平安や満足が得られない状態となる。

また現代人には、効率化と合理化によって生じた余暇を、安易な娯楽によって時間つぶしをするという矛盾がある。

自己実現に目覚めるときは危険なとき

自分のあり方に疑問を持ち、より統合された自分になろうとするとき、様々な矛盾や葛藤と向き合うことになる。

性愛の対象が一般とは違う。半生をかけて取り組んでいたことが、自分の求めていた道ではなかった。愛していた人を、実は憎んでいた。尊敬し目標としていた人が、卑下すべきことに気付いた。

こんな具合に、成長のための気づきは、精神が不安定になるタイミングでもある。

このとき、精神的なことにこだわりすぎず、かといって物質的なことにこだわりすぎず、両面から自分の問題に向き合っていかなければならない。夢分析などを活用し、心の状態と現実世界の状態を、照らし合わせてゆく必要がある。

自己の象徴

自己実現は人生の目標であるが、ある究極的な地点があるわけではなく、向かってゆく過程にこそ意味があるものだ。そんな旅の中で、夢に様々な象徴が現れて、自己の統合の状況を伝えてくれる。

アニマやアニムスが心像として少年や少女の姿を取るように、自己もまた、様々な心像の姿で現れるということだ。

老賢者(wise old man)

主に男性に対して、おとぎ話に出てくるような、全てを解決する知恵を持った老人の姿で夢に現れる。

イメージとしては、「アーサー王に助言するマーリン」「道教を伝えた老子」などだ。

老賢者は行き詰まった状況で現れて、超越的な洞察力と知性によって様々なアドバイスをくれ、人間を導いてくれる。

至高の女神

主に女性に対して、仙女や女神の姿で夢に現れる。

イメージとしては、「シンデレラを助ける魔女」「神話の地母神」「アマテラス」「聖母マリア」などだ。

女神についても、行き詰まった状況で現れて、救いをもたらしてくれる。

子ども

弱々しく見えるのに大きな価値があるという象徴として、自己が子どもの心像となって夢に現れることがある。

子どもは未来に向かって大きな可能性を秘めており、また、制御しきれない不可解なものだ。欺瞞や前提を無視して、真実を指摘することも仕事のひとつだ。

この子どものイメージによって、軽視しがちだが重要なことについて知ることができる。

曼荼羅(マンダラ)と自己

マンダラとは、密教において、悟りの境地を平面化したものだ。

ユングは治療の過程で、患者の心の内部から、四角形や円形の、マンダラを思わせるイメージが現れてくることを発見した。また、このマンダラ自体が自己の心像のひとつだと考えられるのだという。

マンダラ自体が自己の心像のひとつ
Photo credit: Bistrosavage via Visual hunt / CC BY

マンダラのもたらす効果

患者がマンダラを描くと、マンダラは患者自身に平安や安心をもたらすものとなった。このことからユングは、マンダラを治療の起点となりうるものと感じていた。

患者の描くマンダラは、患者の心の全体性を表現した、鏡のようなものだ。患者は自分の心を客観視し、自己の統合に取り組むことができる。

マンダラの意味

マンダラの語義自体は複数あるようだが、代表的な解釈を紹介する。

サンスクリット語において、「曼荼=manda」は神髄や本質を表し、「羅=la」は成就したことを表す。そのため、マンダラとは「神髄の成就」といった意味となる。

マンダラの種類

患者の描くマンダラには様々な種類があり、円形や四角形をベースにしたものから、人物や動物が現れたり、立体的な構図を持ったものまであった。

マンダラの東西

西洋人の描くマンダラは、計算された庭園を思わせる調和のとれたものであるのに対し、東洋人の描くマンダラは、非対称的なものが多く、根底にある宗教感や哲学が影響していると考えられる。

自己実現のタイミング

人生の中では、様々な転換期が訪れる。転換期に人生が好転することもあれば、大きな失敗をすることもある。ここでは、自己と時間の関係について説明したい。

半生の転換期

40歳前後の、人生の後半に向かう段階で、大きな転換期があるとされている。思春期の欲求などを押さえつけて社会で働いてきたような人間が、隠された自分の欲求に気付き、新しい価値観に目覚めるのだ。

このときに非現実的な夢に心を乗っ取られると、破滅的な行動をしてしまうこともある。(急な退職や起業。離婚や金銭トラブルなど)

上記の40歳前後の例以外にも、児童の第一反抗期や第二反抗期など、価値観が変容する節目というものが幾つかある。

歳とともに変わるもの

価値観の転換期は人生に何度か訪れるのだが、若者が老年者の境地が理解できないのと同じように、30歳なら30歳の、50歳なら50歳の生き方がある。

そのときどきの肉体的な条件を無視して、若者のふりをしても、無理が生じてくる。そのため、年齢に応じた人生の味わい方をし、自己の完成を目指すことが肝心だとされている。

カイロスとクロノス

人間にとっての時間というものは二種類ある。ギリシャ語では、καιρός (カイロス)と χρόνος (クロノス)という言葉を当て、区別している。

カイロス - Wikipedia

  • カイロス:その人にとって特別な主観的な時(新しい旅立ちを決断したときのような、その人にとってのタイミング)
  • クロノス:世界共通で流れていく、一般的な時間

そこで本書では、自己実現に向かって生きていく中で、カイロス(主観的な時間)とクロノス(客観的な時間)のバランスが大切であると述べられている。

自分のタイミングを大切にして生きていくためにはカイロス的な価値観が大切だが、カイロスだけでは社会性を失ってしまう。(自己中心的となり、約束の時刻に遅れる、など)

その一方で、社会性を重視してクロノスばかりを考えると、今度は自分にとっての時間である、カイロスを見失ってしまう。(周囲に流されてばかりで、自分の時間や自分のタイミングを見失う、など)

シンクロニシティ(同時性、共時性)

自己実現のタイミングが近づくと、偶然の一致や偶然の出会いなどが重なることがある。これを説明するために、ユングはこういった偶然の一致をシンクロニシティと名付けた。

シンクロニシティは西洋的な合理主義で考えると、まったく扱いがたく、無理に説明しようとすると魔術主義やオカルトに陥ってしまう。(因果律による強引な説明)

そのためユングは、合理的な原理の解釈にこだわりすぎず、「ある現象が、ただある現象に共鳴して起こっている」という事実を、臨床の現場で役立てることに集中した。

相と因果律

シンクロニシティについて河合隼雄氏は、中国の「相術」を例にとって説明している。

相とは、星占いや人相占い、手相占いなどで観察する、物事の表層の状態だ。相術では、こういった物事の表面的な状態を見て、人生や戦局や時代の全体を読み解こうとする。

合理主義的な考え方では、「AはBである。BはCである。よってAはCである」的な因果を中心にした考え方をする。

しかし、相術での考え方は、これとは根本的に異なり、「Aのある部分とBのある部分は共通している。よって、Aがこういう状態のときは、Bもこういう状態だ」などというように考える。

そこには因果律的な説明ではなく、経験的な事実の積み重ねが存在する。

ユング心理学についても、不条理な無意識の働きの中に、不思議な法則性が見られる点について、この「相」の考え方が参考になる。

まとめ

今回はユング心理学入門(河合隼雄著)の「第七章 自己」を解説した。
第七章を簡単にまとめれば、

「人間は自己へ意識と無意識を統合し、個性化を目指すことを人生の目標としている」

と言えるだろうか。

さて、ついに本書を読み終えたわけだ。ユング心理学は臨床の現場だけではなく、もっと社会の中で実用的な使われ方がされてもいいのではないだろうか。

引き続き、心理学について掘り下げていってみたい。

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