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kyamanekoです。IT、思想、哲学、心理学などの記事を書いています。

個人情報漏洩させたらこうなった - vol. 34

実録! 個人情報漏洩させたらこうなった

イベント運営会社『DNプランニング』が運営する、チケット販売サイト『オールチケットオンライン(OCO)』は、約14万人の会員を抱えていた。
ある日、OCOはサイバーアタックを受け、約9万人の個人情報を流出させてしまった。
システム保守を行う『GRシステム』は、責任を問われ、対応に奔走することになった。
もし損害賠償請求をされたら、たちまち倒産するかも知れない。
苦情とサイバーアタックの嵐の中で、関係者たちは……

※本作はフィクションです

 

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vol. 34

 由加里は緑川と並んで電話対応をしていた。
 コールセンターが用意されつつあったが、どちらにしても、オフィスにかかってくる電話は受けなければならない。
 コールセンターに電話が入るのは、実質的には翌朝の告知以降になるはずだった。
 そう、翌朝にカード情報漏洩についての告知をすると同時に、コールセンターの番号を発表する予定だ。
 また、カード情報の漏洩対象者には、個別で連絡を取っていった。

 

 そんなとき、またオフィスの電話が鳴った。
 その電話はDNプランニングの女性社員が受けた。
 クレームならば由加里たちに回されのだが、そうではなかった。
「岩倉さん。Megaカードの三浦さんから、2番です」
 すると岩倉は、わかった、と答えて電話に出た。
 どうやら、Megaカードの見積もりをとっていたようだ。
 いったい幾らになるのだろうか。
 由加里は思わず身震いした。
 さしあたってMegaカード配布についての告知は、カード情報漏洩の騒ぎで保留になっていた。そのうちカード情報の漏洩対象者を含めて、改めてカード配布告知の話が持ち上がるだろう。

 

 そのとき、会社用の携帯電話が鳴った。
 由加里は背後の小笠原に電話番を頼み、席を立った。
 相手は『オリモト』だった。
 パソコンがコンピュータウイルスに感染したため、再インストールをはじめた男だ。
 その後再インストールに失敗したのか、パソコンが起動しなくなったと言っていた。
 由加里は覚悟を決めて電話に出た。
「お電話ありがとうございます。藤野でございます」
「オリモトです」
「ど、どうも、オリモト様、お世話になっております。このたびは、大変ご迷惑をおかけしております。……パソコンの件はいかがでしょうか」
 すると、ため息が聞こえてきた。
「いかがもなにも、変わらないですよ。壊れちゃった、って言ってるだろ」
「申し訳ございません」
「あのさ、大人として、解決しましょう、って言ってるわけ。わかる?」
「はあ……」
「パソコンとソフト合わせて、80万円したわけですよ。どうされますか? なんなら、ネットで今回の被害者を集めて集団訴訟させてもらってもいいけど」
 由加里は困った。
 パソコンの補償となったら、そのままGRシステムの支払いとなるだろう。とはいえ、集団訴訟となったら更に大事になる。
「もうさ、このままだと話が進まないんだわ。――ちょっと、そっちに行くから」
「と、おっしゃいますと……」
「だから、そっちの会社に行くよ。明日、昼過ぎに行くから」
 突然の展開に由加里は驚いたが、機嫌を損ねると厄介なので、従うことにした。
「わ、わかりました。ご足労おかけします」
「きちんと、おたくの誠意をみせてね。それ次第だから、ホントに」
 そう言って、オリモトは電話を切った。
 そこに、緑川が話しかけてきた。
「もしかして、オリモトさん、こられるんですか?」
「ええ、そうね……」
「怖いですね」
「仕方がないわ」

 その後、由加里は岩倉にオリモト来訪について伝えた。
 大島にも、オリモトとのやりとりを共有した。

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