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シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき(レイ・カーツワイル著)

シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき(レイ・カーツワイル著)

近年、シンギュラリティ(技術的特異点、または2045年問題という言葉を耳にすることが多くなってきた。
そこで、シンギュラリティという概念の提唱者であるレイ・カーツワイル氏が書いた、元著とも呼べる「THE SINGULARITY IS NEAR」(シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき)を読んだので、感じたことを書きたい。

なお、Kindle版の書名は「シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき」となっており、単行本版の書名は「ポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるとき」となっている。

今回は上のフルバージョンを対象にレビューしているが、値段とボリュームを抑えた、読みやすいバージョンが以下のエッセンス版だ。

 

目次

レイ・カーツワイルとは

レイ・カーツワイル(Ray Kurzweil, 1948年2月12日 -)はアメリカの発明家であり科学者で、現在はGoogle社でAI(人工知能)開発の総指揮をとっている。
ソフトウェア開発を中心に様々な功績を残している、世界的なAIの第一人者だ。
本書以外にも、科学技術の未来を予測するテーマの書籍を発刊しており、いずれもその視点の大胆さと精度の高さが認められている。

シンギュラリティ(技術的特異点)とは

シンギュラリティ(技術的特異点)とは、レイ・カーツワイルが提唱した概念だ。
本書の中では、「GNR(遺伝子学、ナノテクノロジー、ロボット)」の3要素の発展によってもたらされる、人類の生活を革命的に変容させる特異点のことを指している。
また、本書によれば、技術的特異点は2045年に訪れるとされている。

科学博物館的な予言書

本書では、科学技術の進化がもたらす変化について、様々な角度で詳細な予測が述べられていた。そういう意味で本書は、「シンギュラリティ後の世界の予言書」である。

とはいえ本書が発刊されたのは2005年ということもあり、進歩の早いテクノロジーの世界においては、古典とも言ってもよさそうだ。
するとすでに現代は、「シンギュラリティの初期検証段階」になっているのかも知れない。

本書においての「予言」については、一部は実現に向かい、一部はあり方が変わっているものもある。しかし、大筋においてやはり、(2045年の妥当性は別にしても)人類はシンギュラリティに向かっているように思う。

科学的知見と想像力の宝庫

「シンギュラリティ」の概念だけに触れると、どうしてもセンセーショナルな、バズワード的な印象を持ってしまうかも知れないが、本書を読むと、その理論が広範に渡る知見に裏付けられていることが分かる。

医学、宇宙物理学、IT技術、ナノテクノロジー、脳科学、認知科学、心理学、人生哲学など、多種多様な視点から未来の様相が論じられているのだ。

また、本書の要旨は、以下のようになっている。

  • 過去の歴史より、技術の進歩は「指数関数的な指数関数」で伸びていると推定(技術的特異点がくると技術進歩が急激な登り曲線になる)
  • 技術的特異点は、「新人類の登場」「言語の発見」「産業革命」などとならぶ、人類史を変える大変革となる
  • 人類はシンギュラリティ以降の生活に備える必要がある

上記の3点の説明を、661ページにも及ぶ長大なボリュームで渾々と行っているのが、本書の凄いところだ。
最終的には、「宇宙レベルに広がる人間意識」という段階までに話がおよぶ。本書に対して前向きについていけば、理解できなくもない理論であるが、そういう点については宗教書的というか、思想的な部分にまで達していると言える。

賛否両論があるだろうが、そこまで踏み込んでいるからこそ、本書がたんなる技術批評書の枠を超えて評価されているのだ。
実際、本書には至るところで、ニーチェなどの哲学者や、ユングなどの心理学者、その他文学者などからの引用がされている。
こういった、本書における幅の広がりは、魅力のひとつになっている。

シンギュラリティの詳細

指数関数的×2なテクノロジーの発展(収穫加速の法則)

「指数関数的に成長する指数関数的な曲線」を描いて、テクノロジーの性能が向上し続けるという主張があった。人間は線形な成長を想定しがちだが、これまでの技術の進化の特徴を分析すると、ある一点を境にして急激に向上するポイントが訪れるのだという。そして、それが「シンギュラリティ=技術的特異点」ということだ。

指数関数的な技術の進歩

GNR要素が鍵となる

GNRの頭文字をとった各技術の発展が、シンギュラリティをもたらすとされている。

  • G=Genetics(遺伝学)
  • N=Nanotechnology(ナノテクノロジー)
  • R=Robotics(ロボット工学)

ということになる。

パターン理論

カーツワイルは万物の根本に、「パターン」の法則があると定義している。
例えば動植物や自然界や宇宙に存在する万物は、ミクロ的にみると、同じパターンが積み重なって、より巨大な組成物を構成していることが観察できる。樹木の枝や、葉のデザイン。昆虫の模様のデザイン。人体の組成。ミクロ的な世界とマクロ的な世界の共通点など。(万物はフラクタル的な展開をしている、という考え方)
このフラクタル的な宇宙観に、ホログラフィック投影理論的な宇宙観(存在の本質は原子に保存された情報の集まりであり、三次元空間は二次元の情報の投影に過ぎない)を加えたものが、カーツワイルが想定する宇宙のようだ。
また、この宇宙観の中での物質存在の法則を、(デジタル情報がフラクタル的に繰り返すという意味での)「パターン」と定義している。

進化の6つのエポック

人類の進化は6つの段階があるとされている。あるエポックは、前のエポックを前提として、順次積み重なって発展していく。

エポック1 物理と化学

物質とエネルギーの段階。基本的な宇宙の法則に基づいて、エネルギーが存在する状態となった。

エポック2 生命とDNA

自己複製機能を有する分子集合体=生命が地球に誕生した。また生命は、DNAの仕組みにより、より複雑な組成を再現できる方法を構築した。

エポック3 脳

脳の発達によって、生物はパターンを認識できるようになった。創造力や想像力を手に入れた。

エポック4 テクノロジー

機械や自動装置の開発、ひいてはコンピューターの開発を行うに至る。ここが現代。

エポック5 人間のテクノロジーと人間の知性が融合する

数十年先においてシンギュラリティが起き、この段階に達する。人間の肉体や思考力の限界が、科学技術によって超越的なものとなる。人間の寿命が非常に長くなり、ある意味で人間自身が機械と融合した神に近づいていく。

エポック6 宇宙が覚醒する

人間とテクノロジーの存在可能性が極限となり、宇宙のどこにでも存在できるようになる。人間存在は、知性というもっとも抽象的な単位となり、宇宙に偏在するようになる。ここまでくると、肉体や機械という境目がなくなり、個人という境目も希薄になる。

実現できること

エポック5のシンギュラリティ到達において、実現できると主張されていることを、以下に紹介する。

シンギュラリティ到達までに

  • 人間の脳の構造を完全にデジタル化できる
  • 脳の構造をソフトウェアでエミュレーションできる
  • 人工知能がチューリングテストに合格できる
  • 人間の知能を超える強いAIが完成することで、加速度的な成長を遂げる機械の自己開発がはじまる

機械の発展と人間機能の拡張

  • 機械は自分自身を再設計できるようになる
  • 通信速度が光速に近づく
  • 3D分子回路や量子コンピュータの実用化
  • 脳に機械を接続し、処理速度と処理スケールを拡張する
  • 知識や技能をダウンロードできる
  • インターネットに通じて人類の知識の全てにアクセスする
  • 人体の構造やメカニズム自体を改変してバージョンアップする
  • 脳の構造をバージョンアップする

ナノテクノロジー

  • 若返り用の人工細胞、血液の代わりとなる人工細胞を作成できる
  • 人間は不老不死になる
  • 神経系の内部からヴァーチャルリアリティを作り出すことができる
  • 脳の毛細血管に入り、脳機能を高めることができる
  • ナノボットが環境汚染問題などを解決する
  • フォグレットと呼ばれるナノボットが、現実世界に高品質のヴァーチャルリアリティを出現させる
  • ナノボットが人間のレプリカを作り出す
  • ナノボットが人間に危害を加えるリスクがあるが、それを取り締まるナノボットも開発される

まとめ

今回は、「シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき(レイ・カーツワイル著)」を読んだ感想についてまとめた。

読破するのに体力を要したが、『googleのAI開発を統括する天才エンジニア=レイ・カーツワイルが、どのような考え方をしているかを知れる』という点で、チャレンジする価値が大いにあった。

本書は読み物としてもおもしろく、SF的なロマンにもあふれている。また、科学的な裏付けや考察が奥深く、論説に説得力があった。
個人的には、人工知能や心理学に関連した切り口にも興味が湧いた。

一方で、科学技術の進歩に伴う人生観や死生観の変化についての問題にも触れられており、その点も考えさせられた。

そんなわけで、引き続きシンギュラリティというテーマを掘り下げてみたいと思っている。

それではまた。

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